公共工事への参入や、より上位の工事を受注するために、経営事項審査(経審)の点数を上げたいと考える建設業者は少なくありません。
しかし、経審の点数は売上高だけで決まるものではありません。
完成工事高、自己資本、利益、財務状況、技術者、元請工事、社会性など、複数の項目を総合して評価します。
そのため、単純に売上を増やすだけでは、期待したほど点数が上がらないこともあります。反対に、現在の会社の状況を正しく把握し、取り組みやすい項目から改善すれば、点数を上げられる可能性があります。
この記事では、経審の点数が決まる仕組みと、中小建設業者が取り組みやすい改善方法を解説します。
目次
経審の点数は5つの項目で決まる
経審の総合評定値である「P点」は、次の5項目から算出されます。
| 評価項目 | 主な審査内容 | P点への割合 |
|---|---|---|
| X1 | 業種別の完成工事高 | 25% |
| X2 | 自己資本額・利払前税引前償却前利益 | 15% |
| Y | 経営状況 | 20% |
| Z | 技術職員数・元請完成工事高 | 25% |
| W | 社会性等 | 15% |
計算式は次のとおりです。
P点=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W
完成工事高を評価するX1と、技術力を評価するZの割合が、それぞれ25%と大きくなっています。
ただし、短期間で改善しやすい項目と、数年かけて改善する項目は異なります。まず自社の評点を項目ごとに確認し、どこに改善の余地があるかを分析することが大切です。
国土交通省「経営事項審査の主な改正事項(令和8年7月1日施行)」
完成工事高を増やす
X1では、経審を受ける建設業種ごとの完成工事高が評価されます。
例えば、土木一式工事と管工事の許可を持っている会社でも、それぞれの業種について完成工事高を集計し、業種ごとに評点が算出されます。
完成工事高を増やすことは、経審の点数を上げる基本的な方法です。ただし、売上を増やすことだけでなく、工事業種を正しく分類することも重要です。
工事業種を正しく分類する
工事経歴書の業種分類を誤ると、本来計上できる完成工事高が、審査を受けたい業種に反映されないことがあります。
特に、次のような工事は判断に迷いやすい傾向があります。
- 土木一式工事と専門工事
- 建築一式工事と内装仕上工事
- 管工事と水道施設工事
- とび・土工・コンクリート工事と解体工事
- 電気工事と電気通信工事
工事名だけで判断するのではなく、実際の施工内容や請負契約の内容に基づいて分類する必要があります。
一式工事に安易に計上しない
複数の作業を含む工事だからといって、すべてが土木一式工事や建築一式工事になるわけではありません。
一式工事は、原則として複数の専門工事を総合的に企画・指導・調整して施工する工事です。
実際には専門工事に該当するものを一式工事として計上すると、補正を求められたり、完成工事高が認められなかったりする可能性があります。
2年平均と3年平均を比較する
完成工事高は、一定の条件のもとで2年平均または3年平均により算出します。
直近年度の工事高が大きく増えている場合は2年平均が有利になりやすく、工事高が減少している場合は3年平均が有利になる可能性があります。
ただし、完成工事高と元請完成工事高では、同じ平均年数を選択する必要があります。
申請前に両方の方法で評点を試算し、どちらが自社に有利か確認しましょう。
元請工事を増やす
Zでは、技術職員数とともに、業種別の元請完成工事高が評価されます。
下請工事もX1の完成工事高には含まれますが、Zの元請完成工事高には含まれません。
そのため、完成工事高が同程度であっても、元請工事の割合が高い会社の方が、Z点が高くなる可能性があります。
元請工事を増やすことには、次の効果が期待できます。
- 元請完成工事高の評価が上がる
- 工事実績を蓄積できる
- 将来の入札参加資格審査で有利になる可能性がある
- 発注者との直接的な取引実績を作れる
ただし、名義だけを元請とすることはできません。契約関係や施工体制など、工事の実態に基づいて申請する必要があります。
技術者を確保し、資格取得を進める
Zの技術職員数は、経審対策において重要な項目です。
技術職員は、保有資格や監理技術者講習の受講状況などに応じて、1人当たりの点数が異なります。一般的には、上位資格を持つ技術者ほど高く評価されます。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
- 2級施工管理技士から1級施工管理技士を目指す
- 施工管理技士補から施工管理技士を目指す
- 対象となる技能検定を受検する
- 1級施工管理技士等が監理技術者講習を受講する
- 若手従業員の資格取得費用を会社が支援する
- 必要な資格を持つ技術者を採用する
ただし、資格者を採用すれば、すぐに経審へ計上できるとは限りません。
原則として、審査基準日以前に6か月を超える恒常的な雇用関係があり、常時勤務していることを証明する必要があります。
資格取得や採用は、次回の審査基準日を考慮して早めに計画しましょう。
自己資本を充実させる
X2では、自己資本額と利払前税引前償却前利益が評価されます。
自己資本を増やすための基本は、毎期利益を確保し、利益剰余金を積み上げることです。
次のような取り組みが考えられます。
- 適正な利益を確保する
- 赤字工事を減らす
- 原価管理を徹底する
- 不要な経費を見直す
- 利益を社内に留保する
- 必要に応じて増資を検討する
ただし、経審の点数だけを目的として、決算直前に形だけの増資や資金移動を行うことは適切ではありません。
また、借入れによって預金を一時的に増やしても負債が増えるため、Yの財務指標に悪影響を与える可能性があります。
会社全体の財務状況を見ながら判断することが必要です。
利益とキャッシュフローを改善する
Yの経営状況では、次の8つの財務指標が評価されます。
- 純支払利息比率
- 負債回転期間
- 総資本売上総利益率
- 売上高経常利益率
- 自己資本対固定資産比率
- 自己資本比率
- 営業キャッシュフロー
- 利益剰余金
そのため、売上高だけを増やしても、利益率が低かったり、借入金が増えたりすると、Y点が下がることがあります。
改善策としては、次のようなものがあります。
- 工事ごとの原価と利益を把握する
- 採算の悪い工事を見直す
- 未回収の工事代金を早めに回収する
- 不要な借入金を減らす
- 過剰な設備投資を避ける
- 利益剰余金を積み上げる
- 本業以外の支出を見直す
Y点は8つの財務指標を組み合わせて算出するため、一つの数字だけを改善すれば必ず上がるわけではありません。
設備購入、借入れ、役員報酬、減価償却などが複数の指標に影響することもあります。決算前に税理士と行政書士へ相談し、税務と経審の両面から検討することが重要です。
社会性等の加点項目を確認する
Wでは、会社の社会性、法令遵守、災害対応などが評価されます。
完成工事高や財務状況は短期間で大きく変えることが難しい一方、Wには比較的取り組みやすい項目があります。
主な加点項目には、次のようなものがあります。
- 建設業退職金共済制度への加入
- 退職一時金制度または企業年金制度の導入
- 法定外労働災害補償制度への加入
- 防災協定への加入
- 建設業経理士等の配置
- CPD単位を取得した技術者
- 技能レベルが向上した建設技能者
- ワーク・ライフ・バランスに関する認定
- 建設キャリアアップシステムの活用
- 対象となる建設機械の保有
- ISOやエコアクション21などの認証・登録
ただし、制度に加入しただけでは加点されず、審査基準日時点で要件を満たし、必要な証明書類を提出しなければならない項目があります。
費用や会社の実情を考慮して、無理なく継続できる制度から検討しましょう。
建設機械の保有状況を確認する
災害時に活用できる一定の建設機械を保有または長期リースしている場合、W点の加点対象になることがあります。
対象となる代表的な機械は、次のとおりです。
- ショベル系掘削機
- ブルドーザー
- トラクターショベル
- モーターグレーダー
- 移動式クレーン
- ダンプ
- 締固め用機械
- 解体用機械
- 高所作業車
2026年7月1日以降の申請から、次の機械も対象に追加されました。
- 不整地運搬車
- アスファルト・フィニッシャ
保有台数に応じて評価され、14台以上の場合は最大15点となります。
ただし、対象機械であっても、所定の定期検査を受けていない場合や、審査基準日に検査の有効期間が切れている場合は、加点されないことがあります。
売買契約書、リース契約書、車検証、特定自主検査記録表などを早めに確認しましょう。
2026年新設の「自主宣言」を検討する
2026年7月1日以降の申請では、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の宣言の有無が、新たな評価項目として加わりました。
要件を満たす場合は5点の加点対象となります。
加点を受けるためには、審査基準日が宣言日以降であり、宣言書と誓約書を提出する必要があります。
この制度では、建設技能者の適切な処遇や働きやすい環境づくりなどに取り組むことを宣言します。
申請直前に宣言しても、直前の決算を審査基準日とする経審に遡って加点されるわけではありません。
次回の審査基準日を考えて、早めに検討することが重要です。
建設業経理士の活用を検討する
Wの「建設業の経理の状況」では、建設業経理士等の人数や監査の受審状況が評価されます。
経理担当者が建設業経理士の資格を取得することで、加点につながる可能性があります。
ただし、資格の種類だけでなく、登録経理試験の合格後に一定期間が経過している場合の講習受講など、評価対象となるための条件があります。
資格証だけで判断せず、審査基準日時点で経審上の評価対象になるか確認しましょう。
P点だけで落札できるわけではない
公共工事の入札では、経審のP点だけで業者の順位が決まるとは限りません。
発注機関は、P点に加えて、独自の主観点、工事実績、地域貢献、技術者の配置状況などを評価し、等級や順位を決定することがあります。
したがって、目標は単にP点を高くすることではなく、希望する発注機関や工事業種で必要な等級に入ることです。
まず目標点を決める
「点数をできるだけ上げたい」というだけでは、必要以上の費用をかけてしまう可能性があります。
まず、次の事項を確認しましょう。
- どの発注機関の工事を受注したいか
- どの建設業種で入札したいか
- 希望する工事規模や等級
- 現在のP点
- 目標等級までに必要な点数
- 改善に使える期間と費用
目標が明確になれば、自社に必要な対策を絞り込めます。
決算後では間に合わない対策がある
経審は、原則として直前の決算日を審査基準日として行います。
そのため、決算後に制度へ加入したり、機械を購入したりしても、今回の経審には反映されず、次回からの評価になることがあります。
資格取得、技術者の採用、各種制度への加入、建設機械の検査などは、決算日前に準備する必要があります。
経審対策は決算前の試算が重要
経審の点数を効果的に上げるには、決算が終わってから結果を見るのではなく、決算前に評点を試算することが重要です。
事前に試算すれば、次のような点を確認できます。
- 2年平均と3年平均のどちらが有利か
- どの業種の評点を重点的に改善するか
- 技術者の資格や雇用期間が要件を満たすか
- 建設機械が加点対象になるか
- 加入している制度に申請漏れがないか
- 財務指標に大きな弱点がないか
- 目標とする等級に届く可能性があるか
経審対策は、短期間でできるものと、数年かけて取り組むものを分けて考えると効果的です。
まとめ
経審の点数を上げるためには、完成工事高だけでなく、技術者、元請工事、財務状況、社会性などを総合的に改善する必要があります。
主なポイントは次のとおりです。
- 工事を正しい業種へ分類する
- 2年平均と3年平均を比較する
- 元請工事を増やす
- 技術者の採用や資格取得を計画する
- 利益と自己資本を積み上げる
- 建退共や法定外労災などの加入状況を確認する
- 建設機械の検査期限と証明書類を確認する
- 2026年に新設された自主宣言制度を検討する
- 決算前に次回の評点を試算する
会社によって、効果的な対策は異なります。
「どの項目から改善すればよいか分からない」
「次回の経審で何点くらいになるか知りたい」
「希望する入札等級に入るための対策を考えたい」
このような場合は、決算前のできるだけ早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
山岡正士行政書士事務所では、三豊市・観音寺市を中心に、香川県内の経営事項審査、決算変更届、入札参加資格申請をサポートしています。
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